日銀金融政策点検の全文(2021年3月19日)

 

2021年3月19日

本日3/19(金)に行われた日銀金融政策決定会合で発表された、より効果的で持続的な金融緩和について、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検です。
(日銀HPより転載)

より効果的で持続的な金融緩和について

1.より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検
 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行った(別紙1)。その結果、基本的な政策の考え方としては、2%の「物価安定の目標」を実現するため、持続的な形で、金融緩和を継続していくとともに、経済・物価・金融情勢の変化に対して、躊躇なく、機動的かつ効果的に対応していくことが重要であると判断した。
こうした観点から、以下の対応を行うこととした。
① 金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、短期政策金利に連動する「貸出促進付利制度」(別紙2)を創設する。
② イールドカーブ・コントロールについて、平素は柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅は±0.25%程度であることを明確化する。同時に、必要な場合に強力に金利の上限を画すため、「連続指値オペ制度」を導入する。
③ ETFおよびJ-REITについて、新型コロナウイルス感染症の影響への対応のための臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う。

2.当面の金融政策運営
経済・物価の現状と見通しは、別紙3のとおりである。これらを踏まえ、日本銀行は、当面の金融政策運営について、以下のとおり決定した。
(1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
(2)資産買入れ方針(全員一致)
長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。
① ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
② CP等、社債等については、2021 年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。
3.先行きの金融政策運営方針
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネ タリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
引き続き、①新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、②国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、③それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。
当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、そ れを下回る水準で推移することを想定している(注2)。

(注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員、安達委員、中村委員。反対:片岡委員。片岡委員は、物価下押し圧力の強まりへの対応と、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。
(注2)片岡委員は、デフレへの後戻りを回避するためにも、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。

 

より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検

【基本的見解】

1. 点検結果

(1)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向
 日本銀行が2016年9月に「総括的検証」を踏まえて導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、次の3点を目的としている。第1に、予想物価上昇率に関する適合的期待形成のメカニズムが強いもとで、2%の「物価安定の目標」の実現のために、需給ギャップがプラスの状況をできるだけ長く続けることである。第2に、金融緩和の長期化が見込まれるもとで、緩和の効果だけでなく副作用にも配盧しながら、適切な水準に金利をコントロールしていく枠組みを導入することである。第3に、オーバーシュート型コミットメントにより、予想物価上昇率に関するフォワード・ルッキングな期待形成を強めていくことである。
 「総括的検証」以降も、1)予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズム、2)弾カ的な労働供給による賃金上昇の抑制、3)企業の労働生産性向上によるコスト上昇圧力の吸収などから、物価上昇率が高まりにくい状況が続いた。足もとでは、新型コロナウイルス感染症の影響により、物価に下押し圧力が加わっている。こうしたもとで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、実質金利を低位で推移させ、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場を通じて、金融環境を改善させた。その結果、需給ギャップはプラス幅を拡大し、雇用・所得環境が改善するもとで、物価上昇率はプラスの状況が定着した。また、需給ギャップが改善し、労働需給がタイト化したことで、女性や高齢者の労働参加が進み、企業は労働生産性を向上させた。このように、日本銀行の大規模な金融緩和のもとで、良好な経済情勢が続いた。また、その中で、日本経済の中長期的な課題についても、前向きな動きが進んだ。
 2%の「物価安定の目標」を実現していくためには、引き続き、経済・物価の押し上げ効果を発揮している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続していくことが適当である。

(2)「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の政策効果
 「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、金利低下を通じて、経済・物価の押し上げ効果を発揮している。その際、1)政策効果は、資金調達コストの低下や良好な金融資本市場などを通じて、波及している。2)金利低下の経済・物価への影響は、短中期ソーンの効果が相対的に大きい。3)超長期金利の過度な低下は、将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。

(3)国債市場の機能度や金融仲介機能への影響
 イールドカーブ・コントロールは、適切な水準に長短金利をコントロールしていく枠組みである。もっとも、金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに、市場機能にはプラスに作用する。経済・物価情勢等に応じて、ある程度の金利変動を許容し、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取ることが重要である。こうした観点から行った、2018年7月の「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」による、柔軟なイールドカーブ・コントロールの運営は、国債市場の機能度を維持する点で効果があった。低金利の長期化に加えて、人口減少などの構造要因から、金融機関の基礎的収益力は低下傾向を続けており、今後も、そうした状況が続くとみられる。これまでも「金融システムレポート」を踏まえ「経済・物価情勢の展望」で、より長期的な視点から金融面の不均衡について点検している。すなわち、金融機関収益の下押しが長期化すると、1)金融仲介機能が停滞方向に向うリスクがある。一方、こうした環境のもとでは、2)利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もある。

(4)ETFおよびJ-REIT買入れの効果
 ETFおよびJ-REIT買入れは、リスク・プレミアムに働きかけることを通じて、市場の不安定な動きを抑制している。さらに、買入れの効果は、金融市場の不安定性が強まるほど、また、買入れの規模が大きいほど、高まる傾向がある。すなわち、市場が大きく不安定化した場合に、大規模な買入れを行うことが効果的である。

(5)オーバーシュート型コミットメント
 わが国においては、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが強いため、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、需給ギャップの改善を通じて、物価を押し上げていく必要がある。それと同時に、フォワード・ルッキングな期待形成も重要であり、これを強めていくため、2016年9月にオーバーシュート型コミットメントを採用した。これは、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するものである。消費者物価上昇率の「見通し」ではなく、「実績値」に基づいて金融緩和の継続を約束する非常に強力なコミットメントにより、2%の「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高めることを狙っている。今回、このコミットメントが実践している「埋め合わせ戦略」について、経済モデルを用いて点検を行った。その結果、この戦略をとることは、金融政策運営として適切であることが改めて確認された。引き続き、オーバーシュート型コミットメントを継続していく。

2. 政策面での対応

(1)イールドカーブ・コントロールの運営
① 貸出促進付利制度の創設
機動的かつ効果的な追加緩和の手段として、長短金利の引き下げは重要な選択肢である。その際には、金融仲介機能への影響に配慮しつつ行うことが適当である。こうした観点から、金利引き下げ時の金融機関収益へ及ぼす影響を、当該金融機関の貸出の状況に応じて一定程度和らげる仕組みを導入する。すなわち、日本銀行が金融機関の貸出を促進する観点から行っている各種資金供給について、その残高に応じて一定の金利をインセンティブとして付与する制度(貸出促進付利制度)を創設し、このインセンティブが、短期政策金利と連動するようにする
(前掲別紙2)。 対象となる資金供給とインセンティブの組み合わせについては、3つのカテゴリーを設ける。今回、①カテゴリーⅠの適用金利を 0.2%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分)、②カテゴリーⅡの適用金利を 0.1%、対象を新型コロナ対応特別オペ(プロパー分以外)、③カテゴリーⅢの適用金利をゼロ、対象を貸出支援基金および被災地オペ、とする。各カテゴリーの付利水準および対象となる資金供給は、今後の状況に応じて、必要があれば、決定会合で変更する。また、この制度は、長短金利の引き下げという追加緩和手段の実効性を高めることに資するものである。市場参加者の間では、追加緩和手段として長短金利の引き下げを意識しない理由に、金融仲介機能への影響を挙げる向きが多いが、本制度により、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、より機動的に長短金利の引き下げを行うことが可能となる。あわせて、マイナス金利政策導入以降の金融機関の日銀当座預金の変動を踏まえ、実際の政策金利残高と完全裁定後の政策金利残高の乖離を縮小させるため、補完当座預金制度におけるマクロ加算残高の算出方法を調整する。

② 長期金利の変動幅についての明確化
2018 年7月に「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を行った際、市場機能の維持と金利コントロールの適切なバランスを取る観点から、長期金利(10 年物国債金利)の変動幅については、「それまでの概ね±0.1%の幅から、上下にその倍程度変動しうる」こととした。その後、変動幅が結果的に狭くなることがあったことも踏まえ、長期金利の変動幅について明確化することとし、上下に±0.25%程度とする。なお、特に下限については、日々の動きの中で金利が一時的に下回るような場合に、そうした動きに厳格には対応しない。

③ 連続指値オペ制度の導入
金利の大幅な上昇を抑制する方法としては、特定の年限の国債を固定金利で無制限に買い入れる指値オペがある。これをさらに強化するために、一定期間、指値オペを連続して行う「連続指値オペ制度」を新たに導入する。

④ 当面のイールドカーブ・コントロールの運営
長期金利については、±0.25%程度で変動することを想定している。また、超長期金利については、過度な低下は、長い目でみて、経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。もっとも、特に、新型コロナウイルス感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先して、イールドカーブ・コントロールの運営を行っていく。

(2)資産買入れ等
① ETFおよびJ-REITの買入れ
ETFおよびJ-REITの買入れについては、感染症の影響への対応のための臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う。買入れを行ったときは、直ちに政策委員に報告する。
また、ETF買入れについては、今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみを買入れることとする1。

② CP等、社債等の買入れ
CP等、社債等の買入れについては、2021 年9月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこととする。なお、感染症の影響への対応としてのCP等、社債等の買入れを終了した後も、一定のCP等、社債等の買入れは継続する。

③ 金融政策決定会合における金融機構局からの報告
今後、「経済・物価情勢の展望」を決定する金融政策決定会合(年4回)において、金融システムの動向について、金融機構局から報告を受けることとする。

1 設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象とするETFについては、「日本銀行が定める基準に基づき適格とする指数に連動するよう運用される銘柄」についてのみ、買入れを継続する。