日銀黒田総裁会見詳報(2018年1月23日)

2018年1月23日

本日1/23(火)に行われた日銀金融政策決定会合後の、黒田日銀総裁会見詳報です。
(時事通信より転載)

 本日の決定会合では、長短金利操作いわゆるイールドカーブ・コントロールの下で、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利については日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利が0%程度で推移するよう、長期国債の買い入れを行います。また、長期国債以外の資産買い入れに関しては、これまでの買い入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。
 本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って先行きの経済物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明いたします。
 わが国の景気の現状については、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働く下で緩やかに拡大していると判断しました。
 やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうした下で輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が改善する中で増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも緩やかに増加しています。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境は極めて緩和した状態にあります。
 先行きについては、わが国経済は海外経済が緩やかな成長を続ける下で、極めて緩和的な金融環境と、政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に景気の拡大が続き、2018年度までの期間を中心に潜在成長率を上回る成長を維持すると見られます。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引き上げの影響もあって成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれます。実質GDP成長率に関する今回の見通しを従来の見通しと比べると、おおむね不変です。
 次に、物価面では企業の賃金価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、エネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きが続いています。もっとも、マクロ的な需給バランスが改善を続ける下で、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇すると見られます。この結果、消費者物価の前年比はプラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。今回の物価見通しを従来の見通しと比べますと、おおむね不変です。
 リスクバランスについては、経済に関してはおおむね上下にバランスしていますが、物価に関しては下振れリスクの方が大きいと見ています。物価面では、マクロ的な需給ギャップが改善を続け、中長期的な予想物価上昇率も次第に上昇すると見られる下で、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要があります。
 なお、展望レポートについては片岡委員が、消費者物価の前年比について先行き2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、物価の見通しに関する記述に反対されました。
 日本銀行は2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために、必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。
 また、今回の決定会合では、貸し出し増加を支援するための資金供給、成長基盤強化を支援するための資金供給、東日本大震災および熊本地震に係る被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションなどの措置について、受付期間を1年間延長することを決定しました。

Q、幹事から2問質問させていただきます。
 一つは、今後の政策金利の調整の方針についてです。今回の展望レポートでも示されたように、経済や雇用情勢の改善は続いておりまして、現在、消費者物価指数は生鮮食品を除いても総合で1%近くまで上昇しております。今後2%に向けて物価上昇の勢いが高まっていく場合に、現在、短期をマイナス0.1、長期を0%程度に誘導している金利水準についても調整が必要とお考えでしょうか。また、どのような条件が整えば調整を行う可能性が生じるのか、お考えをお聞かせください。
A、先ほど申し上げた通り、わが国では景気が緩やかに拡大している一方、物価は弱めの動きが続いております。他の主要国でも同様の傾向は見られますけれども、物価上昇率が1%台半ばで推移している米欧と異なり、わが国の消費者物価の前年比は、エネルギー価格の寄与を除いてみますと小幅のプラスにとどまっております。このように、2%の物価安定の目標の実現までにはなお距離があることを踏まえますと、いわゆる出口のタイミングや、その際の対応を検討する局面には至っていないというふうに思います。日本銀行としては、引き続き現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが日本経済にとって必要であるというふうに考えております。
 Q、それではもう一点お伺いします。ETFの買い入れについてお尋ねいたします。12月28日に公表された主な意見によりますと、12月の決定会合で委員の中から、株価や企業収益が大きく改善していることなどを踏まえ、政策効果と考え得る副作用についてあらゆる角度から検討すべきとの問題提起がありました。リスクプレミアムに働き掛けるという当初の政策目的からも必要性は薄れつつあるようにも思えますが、今後も継続する必要性は何なのか、あるいはどのような条件が整えば見直しを行うのか、お考えをお聞かせください。
 A、ETFの買い入れにつきましては、従来から長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みの一つの要素として、株式市場におけるリスクプレミアムに働き掛けることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていくという観点から実施しているわけであります。こうしたリスクプレミアムの働き掛けは、これまでのところ大きな役割を果たしてきていると思います。
 一方で、本日公表いたしました展望レポートでも指摘したように、これまでのところ、株式市場において過度な期待の強気化を示す動きは観察されておりません。また、コーポレートガバナンスなどの面でも、ETFの買い入れが大きな問題になっているとは考えておりません。従いまして、日本銀行としては現時点でETF買い入れを見直す必要はないと考えております。
 先行きについては、2%の物価安定の目標を実現する観点から、その時々の経済・物価・金融情勢を踏まえながら適切に判断していく方針でございます。
 Q、デフレ脱却を目的に2%の物価目標導入などを盛り込んだ政府・日銀の共同声明を13年1月に公表してから5年がたっております。先ほどお話もありましたが、2%の目標は達成できていませんが、経済閣僚からはその後、デフレ脱却に向けて着実に進んでいるといった意見も出ております。改めてこの5年の振り返りと現在の状況、そして2%目標もしくは共同声明の見直しの是非についてお聞かせいただけますか。
 A、ご指摘の通り、共同声明は2013年の1月に政府と日本銀行において合意され、公表されたわけでありまして、その中でも明示されております通り、日本銀行は2%の物価安定目標の実現を目指して、金融緩和を行って、それを実現していくということになっております。
 その下で、2013年の4月以来、量的・質的金融緩和の導入、さらにはその後、物価上昇率が消費税の導入の影響を除いても1.5%程度まで行ったわけですけれども、その後、消費の低迷であるとか、最も大きくは石油価格が110ドル、120ドルぐらいからどんどん落ちていきまして、最終的には30ドルを割るぐらいまで行ったわけですけども、そういった石油価格等の下落から実際の物価上昇率が低下していって、それが予想物価上昇率にもマイナスの影響を与えるという形で物価上昇率2%の達成というのが遅れてきてしまったわけですね。
 その中で、もとより日本銀行としては、量的・質的金融緩和の拡大、マイナス金利の導入、そして一昨年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入、そしてその下で経済、景気に関しては先ほど申したように緩やかに拡大するという状況になってきておりますし、企業収益あるいは家計の所得等も大きく改善して、その下で経済の好循環が続いているわけですけれども、物価はまだ2%の目標には程遠い状況にあるということでございますので、引き続き2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するためにしっかりと金融緩和をしていきたい、続けていきたいというふうに思っております。
 そうした下で、私どもから見てこの2%の物価安定目標というものを変更する必要があるとは全く考えておりません。そして、この共同声明について何か変更する必要があるというふうには私どもも思っておりません。引き続き粘り強く金融緩和を続けて、2%の物価安定目標をできるだけ早期に達成したいというふうに考えております。
 Q、予想物価上昇率について、今回の展望レポートで判断を弱含みから横ばいに引き上げられましたけれども、予想物価上昇率の引き上げというのは、実質金利の低下を通じて金融緩和効果をより強めるという作用があるかと思いますが、これが今、横ばいですけれども、さらに進んで予想物価上昇率が上昇していった場合に、強まり過ぎた金融緩和効果を調整するという意味で名目の金利を調整することが今後起き得るのかどうかについてお考えをお聞かせください。
 A、ご指摘の通り、予想物価上昇率が上昇していきますと、自然利子率が一定であっても、実質金利の低下によって景気刺激効果が強まっていくということはその通りでありますけども、あくまでも金融政策につきましては、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するという目標との関係で現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を行っておるわけですし、その下で適切なイールドカーブを形成しているわけでありまして、ご指摘のように予想物価上昇率が上がったから、何か直ちにイールドカーブ・コントロールの金利について何か調整する必要があるというふうには全く考えておりません。
 Q、金融調節で2点お伺いします。今月9日に国債買い入れオペを減額したことをきっかけに、日銀の金融政策の正常化観測が浮上して、為替市場で円高が進む局面が見られました。総裁は、オペを受けたこうした市場の反応につきましてどのように受け止めておられるのか、ご所見をお願いします。
 関連なんですが、円高が進行したことによって、市場では日銀が今後国債買い入れを減額することが難しくなったのではないかと、そういう見方も聞かれるわけですが、今後イールドカーブが低下した局面で国債買い入れの減額が難しくなるかどうか、円高を踏まえて、総裁はどのようにお考えか、お願いします。
 A、大分込み入ったご質問ですけれども、まず、長短金利操作つき量的・質的金融緩和というフレームワークのもとでは、毎回の金融政策決定会合において、金融市場調節方針が決定されて、これと整合的な形でイールドカーブが形成されるように長期金利の買い入れが実施されるということでありますので、そうしたもとでのオペの金額やタイミングというものも、国債の需給環境や市場の動向などを踏まえて実務的に決定されるものでありまして、どのような状況であれ、日々の国債買入れオペの運営が先行きの政策スタンスを示すことはないというふうに言ってよいというふうに思います。
 なお、先日、そういったことで、国債の需給環境や市場の動向などを踏まえて実務的に決定されたオペの金額、タイミング等のもとで、為替相場が円高に進んだその一因ではないかとマーケットの一部で言われているようですけれども、まず一つは、為替の動き全体を見ていただくと分かりますように、ユーロがドルに対して非常に強くなって、ドルがユーロに対して弱くなったわけですけれども、その際、ドルが他の通貨に対しても若干弱くなったということでありまして、特に円高が起こったということでもないように思いますけれども、為替の問題はいろんなファクターで動きますので、それについてとやかく言うつもりはありませんが、為替の動向というものも、もちろん十分よく注視しておりますけれども、オペの金額自体は、先ほど申し上げたように、適切なイールドカーブを実現するということを目標に決められておりますので、金額のめどは80兆円となっていますけども、オペの金額はマーケットの状況に応じて増額されたり減額されたりするということでありまして、オペが難しくなるということはないと思っております。あくまでも適切なイールドカーブを形成するという観点から必要なオペを行っているということに尽きまして、その時々の金額とかタイミングが金融政策の先行きを示すものでは全くないということでございます。
 Q、物価目標について二つ質問があります。
 先ほど総裁がおっしゃったように、5年前に2%の物価目標を掲げられたと思うんですけれども、当初は、期待に働き掛けると総裁がおっしゃった通りの効果があったかとも思うんですけれども、今、5年たちまして、物価目標の達成を6回先送りしています。一方で、人々の中では、物価が上がるだけで賃金が上がらないので生活は苦しくなっているというようなことを言う方々もいます。ここで改めて、なぜ2%の物価目標が必要なのか、総裁の言葉でご説明いただけますでしょうか。
 A、当初から日本銀行の立場を申し上げていますけれども、私どもは、単に物価が上がればいいということではなくて、賃金や企業収益などが改善する中で緩やかに物価が上がっていくと、そういう形で2%の物価安定目標が達成されるということを狙って、こうした金融緩和を進めているということでございます。そうしたもとで、期待に働き掛けるという点は、これは、金融政策はどこの国でもそうですけども、そういう要素は必ずあるわけでありまして、そういう要素も十分踏まえて、現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の中でも、ご承知のように、あるいは最初に申し上げた通り、生鮮食品を除く消費者物価の前年比の上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという形で、オーバーシュート型コミットメントという形をして、期待に対する働き掛けというものも引き続き行っているわけであります。
 そうしたもとで、なぜこの物価がなかなか上がってこないのかというのは、二つの要素を考える必要があると思います。一つは、ある意味で言うとグローバルに、日本だけでなくて、欧米でも経済が回復し、かなり順調に成長しているもとでも物価が必ずしも十分に上がってこない。目標に達していない。そうした中で欧米の中央銀行も何度も物価が目標に達するであろう予測の時期をずっと後ずれさせてきているわけですね。ですから、その中には共通の要素というものも一つはあると。一番大きいのはもちろん石油価格でありまして、これは石油価格の下落というものが実際の物価の押し下げの方向に働くということは、グローバルに同じことが起こっていますし、それから、そうしたもとで他の要素としては、最近よく言われていますのは、技術革新であるとかグローバル化とか、そういうことも物価の上昇率を抑制的にする方向に働いていると言われているわけです。
 ただ、それはさっき申し上げましたように、欧米と共通する要素なんですけど、日本の場合はさらに、非常に大きな要素として、やはり1998年から2013年まで、15年間続いたデフレのもとで、いわばデフレマインドというか、物価、賃金があまり上がらないということを前提にした家計や企業の賃金、あるいは価格についての考え方、はっきり言えば賃金、価格設定行動、あるいは、それをどのようなものとして受け入れるかということまで含めて、やはりデフレマインドというものが非常に強くて、欧米のように予想物価上昇率が2%の物価安定目標の周りに比較的よくアンカーされているというところと大きく違って、やはりデフレマインド、そのもとでのさまざまな慣行とか制度、仕組みというものが、なかなか2%の物価安定目標に到達する時期を後ずれさせているという要素があることは事実だと思います。
 ただ、そこのもとでも、2%というのは、従来から申し上げておりますように、三つの理由で必要だというふうに思っております。
 第1には、消費者の物価指数というのは、どうしても実際の物価上昇率よりも高めの数字に出てくる傾向があるわけですね。1%ぐらいとか、もっとだとか、いろんな議論がありますけども、少なくとも、消費者物価指数というのは、どうしてもインフレ、デフレの実態よりも高めの数字が出てきてしまう。ですから、消費者物価指数について、例えばゼロとかいう目標を立てますと、実際はデフレになっているということになってしまうわけですね。
 もう一つは、いわゆる伝統的な金融政策というのは、短期金利の操作ということによって景気を抑制したり刺激したりするということで物価の安定を保とうということなんですけれども、ぎりぎり、実際の経済の実態としての物価上昇率が非常に低いとかという時ですと、短期金利も低いところにくぎづけされて、必要な時に大幅に短期金利を下げるというようなことが難しくなるわけですね。ですから、通常の金融政策の余地を確保するという観点からも、一定の物価上昇率というものを目指し、実現する必要があるということかと思います。
 そういったことから、今の二つの点は各国とも共通の観点で、そのもとで主要国は皆2%という物価安定目標を掲げて金融政策を運営しております。そうしたもとで、わが国も、いわばグローバルスタンダードというか、そういうものに沿って金融政策を運営することが、中長期的に見ても、結果的にも為替の安定にもつながるということがあると思いますので、三つ、消費者物価指数の過大表示の傾向、それから、金融政策の余地を確保する必要があるということ、そして、グローバルスタンダードであるということからも引き続き2%の物価安定目標を目指して、粘り強く金融緩和を続けていく必要があると考えています。
 Q、今ご説明のあった2%の物価目標の理由ですけれども、そのうち、グローバルスタンダードというところで言うと、例えば、金融政策の波及経路も違いますし、例えば、欧米と比べて日本は雇用が硬直的といいますか、まだまだ賃金に、例えば正社員の賃金を上げづらいとか、そういった特有の事情もあるかと思うのですけれども、そういった中で、物価上昇というのは、日本の場合は賃金上昇というところが大きな鍵を握ると思うんですけれども、2%の目標を変えないのであれば、ほかに例えば日銀ができることが何かあるのか、それとも、政府も含めて何かできることがあるのか、その辺りの考えをお聞かせください。
 A、そこは、先ほど御質問の中にもあった2013年の共同声明でもうたわれていますけれども、三つの矢という形で、2%の物価安定目標を早期に実現するための金融緩和、それから、2本目の矢というのは、中長期的には財政健全化、財政再建というものを目指しつつ、短期的には財政による景気刺激ということも行うということ、そして三つ目には、いわゆる成長戦略としてさまざまな構造改革を進めていくという形で、全体としてデフレから脱却して、持続可能な成長を実現するということが目指されているわけですね。
 ただ、各国ともそうですけれども、物価の安定ということは、やはり中央銀行の責務でありまして、そういう意味で、日本銀行としても引き続き2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するために、適切なイールドカーブということ、あるいは、フォワード・ルッキングなオーバーシュート型コミットメントといった形、いずれも現在の金融政策というものを粘り強く続けて物価安定目標を達成していきたいと。波及経路がいろいろあるということは、それぞれの経済実態で少しずつ違ってはいるんですけれども、日本の場合でも、やはり、賃金が上がらなければ物価が上がらない、物価が上がらなければ賃金が上がらないといって、賃金と物価というのは大体平行的に動いておりますので、当然のことながら、賃金が上がっていくということが、持続的な物価安定目標達成のためには必要であると思っております。
 そうしたもとで、日本銀行としては最大の努力をしているわけですが、他方で、政府としても、本年の春闘がいよいよ始まるわけですけれども、そこに向けて、3%の賃金上昇を目指して、労使でしっかりやってほしいということを働き掛けておりますし、政府としても、さまざまな租税特別措置その他でそれをバックアップするようなことをしておられます。そうしたことも、もちろん、賃金、物価には影響があると思いますけれども、しかし、あくまでも2%の物価安定目標を達成する、物価の安定を達成する責務は、やはりどこの国でも中央銀行にあるというふうに考えております。
 Q、二つあるので、一つずつお伺いしたいんですが、一つ目が、きょう展望レポートの中でも「経済の上振れ・下振れ要因」のところで、海外経済の動向に関する不確実性があるという文言が削除されました。不確実性というと、リスクプレミアムにつながる部分だとは思うんですけれども、この文言が消えたことは、将来、ETFの縮小などに向けて多少なり近付いたというふうに理解してもよろしいんでしょうか、この辺り教えてください。
 A、あまり関係ないと思います。引き続き、海外要因というのがリスクに挙げられておりまして、もちろん上振れ・下振れ両方あるでしょうということはその通りなんですけども、掲げられているリスクというのは、多くは海外の下振れ要因であろうというふうに思っております。
 Q、もう1点お伺いしたいのは、今後、金利がどうなるかというのは政府の財政健全化にも大きく影響する部分だとは思うんですけども、物価が上がっていったときに、仮に政府から、借金は膨らまないように低金利をなるべく続けてほしいというようなプレッシャーがあったときに、やはり出口というのはちゅうちょされることにつながるのか、その辺を教えてください。
 A、なかなか難しいご質問で、仮定の問題にはお答えできないと言ってもいいんですけれども、日本銀行の金融政策というものはあくまでも物価の安定と金融の安定という二つの目的、目標の使命を達成するべく行っておるものでございますので、しかもそれは日本銀行というのは政府から独立した機関であり、政策委員会という合議体の下で適切な金融政策を決定していくというものでありますので、そういったご心配は無用かと思います。
 Q、次期総裁人事について今、関心が高まっていますけれども、政界、財界それからマーケット関係者、さまざまな分野で話を聞いても黒田総裁続投を望む声というのが非常に多いというのが現状です。こうした続投期待の声をご本人としてどう受け止めていらっしゃるでしょうか。
 そして、もう1点なんですけれども、総裁はいま73歳で日本の金融政策を引っ張ってこられているわけなんですけれども、まさに人生100年時代の希望の星とも言えると思います。この先5年間も、日銀そして金融政策を引っ張っていこうという思いはお持ちでしょうか。
 A、次期日銀総裁うんぬんの話は、これは常に申し上げていますけれども、これは国会の同意を得て内閣が決定するというものでありますので、それについて何か申し上げるのはせんえつだと思いますので、申し上げられないということであります。
 年齢うんぬんは、今おっしゃった通りの年齢でありますので、それ以上何か付け加えることはございません。
 Q、次期総裁に必要な適性といいますか、資質というのは何だと見ていらっしゃいますか。
 A、それもいろいろ具体的に申し上げるのもせんえつですので、差し控えさせていただきたいと思いますが、常に思っております点は、これはどこの中央銀行でも同じだと思いますけども、これだけ金融がグローバル化し経済がグローバル化した中では、グローバルな視点というか国際的な関わり合いというか、そういったことが非常に重要になっている点が一つだと思います。
 それから、これは経済政策全てについてそうでしょうけども、現実、実態を把握する能力とともに、政策というのはいつもこういうふうにしたらこうなるだろうとかいう、そういうさまざまなオプションを理論的に考えて比較するわけですので、実践的な能力と、その理論的な分析等を兼ね備えているということが重要なんではないかと思います。これは私について言っているわけじゃありませんので、一般的に中央銀行総裁、現在の中央銀行総裁というのはそういったことが必要であろうというふうに思います。
 Q、2点お願いします。一つは、先ほど物価の比較で出された米国の物価ですけれども、日本ではあまり上がっていない医療費とか教育費、それから乗り物ですとか、そういう公共的なもの、あと水道が相当上がっていると思いますけども、こういうものは日本でもやっぱり上がった方がいいというふうに総裁はお考えなのかどうか教えてください。
 それと、もう1点は、共同声明から5年間の推移ですとか金融政策の枠組みについては先ほどご説明ありましたけれども、その評価をお伺いしたくて、この大胆な金融緩和をするということに関しては、多分、誰も異論がないと思うんですけれども、その物価上昇率の結果ですとか、それと共同声明に書かれていた政府の取り組みについて、5年たってこんなものかと思っている人も少なくないのではないかと思うんですが、総裁の評価を教えてもらえますでしょうか。
 A、前段は、相対価格の話ですので、あまり相対価格についてとやかく申し上げるつもりはありませんが、欧米の場合と日本の場合とで比べて一つの違いは、サービス価格があまり日本で上がっていないということであります。これは、物の価格というのは非常に国際的に取引されていますので、為替レートによる遮断効果というのはあり得ますけども、やはり国際的に非常に類似した動きをしがちなんですけれども、サービスというのは多くが国内財ですので、その国の状況を反映して動くということで、そうした中で日本のサービス関係の価格があまり上がっていないと。その中身をいろいろ見ると、帰属家賃の問題であるとか、その他さまざまなサービスにおける価格の上昇があまり大きくないということが影響しているとは思います。
 ただ、これも、この展望レポートにも示されている通り、潜在成長率を超える成長が続いて需給ギャップがさらにプラス幅を大きくしていくと、雇用もさらに逼迫していくという中で、やはり賃金が上がり、労働集約的なサービスの価格も上がっていくということになると思っております。
 それから、共同声明につきましては、先ほど来申し上げている通り、共同声明に沿って日本銀行としては最大限の金融緩和を続けてきたわけですけれども、先ほど来申し上げているように、一番大きな理由は石油価格の大幅な下落、そしてわが国の場合の予想物価上昇率が15年続きのデフレの下で、欧米と違って2%の物価安定目標の周りにアンカーされていないと、むしろずっと低いところにとどまっているといったことから時間が相当かかっていると、欧米の場合よりもかかっているということだと思います。
 従いまして、そういう面では残念でありますけれども、共同声明の考え方が間違っていたとは思いません。日本銀行としても引き続き、粘り強く金融緩和を続けて、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現したいというふうに思っています。
 Q、2点あります。一つは、80兆円のめどの話なんですが、2017年の実績を見ますと60兆円を切るぐらいの水準かなと思うんですが、この少ない量で今同じような金利を維持できているということは日本銀行にとって望ましいことなのかどうかというところ、そもそも80兆円を買う必要があったのかというところを含めて先に伺えればと思います。
 A、これは一昨年の9月にイールドカーブ・コントロール、長短金利操作付き量的・質的金融緩和というものにフレームを変更した時点で、金融調節の目標というのがマネタリーベースの増加であるとか国債の買い入れ額でなくて、まさに長短金利、イールドカーブというものになったわけであります。
 従いまして、80兆円というのはあくまでもめどでありまして、その下で状況に応じて増加したり減ったりするということだと思いますけれども、ある意味でストック効果というものがありますので、結果的にフローとしては国債買い入れ額が少なくても適切なイールドカーブが実現されているということでありまして、もともとめどでありまして目標でありませんので、望ましいとか望ましくないとかいうことはなく、必要なだけ買い入れを進めると。あくまでも目標はイールドカーブという金利構造であると、国債買い入れ額は調整の目標ではないということであります。  Q、もう一つは、春闘の話なんですけども、「賃金の設定スタンス、なお慎重」という文言がずっと続いていまして、次第に積極化していくという話がずっと続いているんですが、もう既に労働組合で多分、要求案を作り始めているような状況ですので、今春闘でなかなか本格的に上がるのは難しいというふうに思っていらっしゃるのか、今春闘でもそういう次第にというところが直近のところに効果を及ぼして一気に上がっていくという状況もあり得ると思っていらっしゃるのか、伺えればと思います。
 A、先ほど来申し上げている通り、強力な金融緩和の下で企業収益の増加、賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環をつくることを目標としておりまして、実際、企業収益は過去最高水準で推移しておりますし、労働需給が一段と引き締まっている他、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比も1%程度まで上昇してきております。このように賃金上昇圧力は着実に高まっているというふうに思っております。
 こうした下で政府は、税制面での措置を含む各種の施策を打ち出して企業による力強い賃金アップを後押しするという姿勢を示しておりますし、企業の側も先週、経団連が3%の賃上げを経営側の指針として掲げるなど前向きな対応を見せております。日本銀行としては現在のこうした経済環境を生かしながら、労使双方において好循環の実現に向けた取り組みが広がっていくことを強く期待しております。
 Q、マーケットの一部には根強く早期の引き締め観測というのがあるようなんですが、12月の決定会合の主な意見が発表されましたが、その辺り、ETFの買い入れの必要性について少し踏み込んだ発言や、将来的に金利の調整を議論する必要性についての意見というのが散見されるようになりました。総裁ご自身の考え方としては、現在は粘り強く金融緩和を続けていくということだとは思うんですが、ただ外から見ていて、この議論の方向性が少し、まあ小さな変化といえばそうかもしれないんですが、変化と、その総裁ご自身の今おっしゃっていることをどう整理すべきなんでしょう、教えていただけますでしょうか。
 A、合議体の議論ですので、いろいろな意見、議論が出るということは非常に自然なことでありまして、結論として前回の金融政策決定会合でも今回でも、ETFなどの買入れについては引き続き6兆円というものを堅持するということで動いております。これは全員一致でそうなっているわけでして、いろんな議論がある、一部の委員がそういった議論をされたということは主な意見で出ている通りでありますけれども、全体としての議論の動向というのは、間もなく公表されると思いますが、前回の決定会合の議論の概要を紹介するものが出ますので、ご覧になっていただくと分かると思いますけれども、ごく一部の議論であったということだと思います。私自身、先ほど来申し上げている通りでありまして、ETFの買入れは引き続き継続するということであり、問題もないと思っておりますし、金利につきましても引き続き粘り強く現在の金融緩和を続けていく、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために行っているということに尽きると思います。
 Q、海外経済の先行きの見方で質問なんですけれども、年初来、朝鮮半島、南北が非常に融和方向に向かっているような、地政学リスクが低下しているように見えるんですが、総裁の見立てをお願いいたします。仮に今後もリスクは低下すると判断できるのであれば、それは世界経済、日本経済にどういう影響があるのか、ご所見をお願いします。
 A、地政学的リスクというものを展望レポートにせよ、いつものいわゆる公表文の中で地政学的リスクというものを挙げていますのは、世界を見渡したとき、幾つかの地域における地政学的リスクがあるということでそれを指摘しているわけであります。そこにはご指摘の地域の問題も含まれているということだと思います。ただ、地政学的リスクが高まったとか低くなったとか、先行きがどうかということについては、私も特別な知見があるわけでありませんので、個人的な意見はいろいろありますけども、あまり日本銀行総裁として、あるいは政策委員会の総意としてどうこうというものはございませんので、答弁を差し控えさせていただきます。