ドラギECB総裁会見全文(2016年3月11日)

2016年3月11日

昨日(3/10)のECB定例理事会後に行われたドラギECB総裁会見全文です。
(時事通信より転載)

 

主要金利0%、中銀預入金利はマイナス0.40%に
 定例の経済・金融情勢の分析に基づき、金融政策スタンスの徹底的な再検証を行った。その際には、2018年までのECBスタッフによる最新の経済予測も考慮に入れた。結果として、ECB理事会は物価安定の目的を追求するため、一連の措置を決定した。この包括的な政策パッケージは、異なる措置の間で相乗効果をもたらすものであり、資金調達条件のさらなる緩和に向けて調整されている。与信を刺激することで、ユーロ圏の景気回復を強め、インフレ率が2%弱の水準に近づくことを早めるものだ。
 第1に、主要政策金利を0.05%引き下げて0.00%にする。限界貸出金利は0.05%引き下げて0.25%とする。さらに中銀預入金利は、0.10%下げてマイナス0.40%とする。

資産購入額、月800億ユーロに拡大
 第2に、月ごとの資産購入額を、現行の600億ユーロから800億ユーロに拡大する。2017年3月末まで実施することが意図されているが、必要であればその後も続ける。いずれの場合でも、理事会が中期的なインフレ率が、2%弱という政策目標に向かってしっかりと推移していると認識するまでは継続する。
 資産購入を引き続き円滑に行うため、国際機関や各開発銀行が発行した証券について、ECBが購入できる額の上限を引き上げる。発行体ごとの上限(1機関が発行したすべての債券のうち、ECBが購入できる比率)、発行銘柄ごとの上限を、ともに33%から50%に拡大する。

ノンバンクの社債買い入れ、4度の長期オペも
 第3に、ユーロ圏内のノンバンクが発行した投資適格のユーロ建て債券を、新たな社債購入策の一環として、買い入れ対象に加える。これにより、資産購入策の実体経済への伝達効果が、さらに強まるだろう。この新たな買い入れ策は、今年第2四半期末ごろに開始する。
 第4に、4回の条件付き長期資金供給オペ(TLTRO2)を、6月を皮切りに行う。満期は4年となる。この新たなオペによりECBの緩和スタンスは強まるほか、銀行の実体経済への融資にインセンティブを与えることで、金融政策の伝達効果も一段と強化されることになろう。
 市中金融機関は、1月末時点での条件に適合する融資残高の30%に当たる額を、この長期オペで借り入れることができる。金利は各長期オペが満期を迎えるまで固定だ。水準は、長期オペ開始時点の定例週オペの金利と同等とする。
 純貸し出しが基準を上回っている金融機関は、金利がさらに下がる。この場合の金利の下限は、オペ開始時の中銀預入金利の水準とする。
 前倒し償還の義務はなく、(2014年に実施した)第1回のTLTROからの借り換えも許される。

政策金利、資産購入の期限後も現状以下に
 最後に、現在の物価安定についての見通しを考慮に入れると、理事会は各政策金利は長期間にわたり、資産購入策の期限後も、現状以下の水準にとどまると予想する。
 14年6月に取られた措置に加え、今回の包括的な金融政策の決定により、物価安定というECBの目的へのリスクに対抗するため、相当な規模の刺激策を提供する。
 原油価格の動向の結果として、インフレ率が非常に低い、あるいはマイナスにさえなるのは、今後数カ月は不可避だ。遅滞なくインフレ率を2%弱に戻すことにより、(物価高が賃金などに波及して固定化する)インフレの2次的影響を避けることが決定的に重要だ。
 理事会は今後の物価安定の見通しを、引き続き注視していく。

GDP見通し、わずかに下方修正
 経済情勢の分析から、詳細の説明に入る。15年10~12月のユーロ圏の実質GDP(国内総生産)は、域内需要に支えられて前期比0.3%増加した。一方で純輸出はGDPを下押しした。
 最新の統計によると、年初の成長の勢いは予想より弱いことが示唆されている。今後も景気回復のペースは緩やかと予想する。
 今後も、ECBの金融政策やそれが資金調達コストにもたらす影響、過去の構造改革がもたらした雇用の改善が、域内需要を下支えよう。
 さらに、低水準の原油価格は家計の実質可処分所得と個人消費、企業の収益や投資にとって一段の助けになるだろう。
 加えて、ユーロ圏諸国の財政出動は若干拡大傾向にある。これは一部は、難民の支援策が反映された結果だ。
 ただ、新興国経済の低成長の見通しや金融市場の混乱、各セクターでのバランスシート調整、構造改革の遅れは、引き続き景気回復の阻害要因となっている。
 こうした見通しは、3月のECBスタッフによるユーロ圏経済予測にもおおむね反映されている。それによると、ユーロ圏の実質GDP伸び率は16年が1.4%、17年が1.7%、18年が1.8%と予想されている。これは昨年12月の前回予想と比べると、わずかな下方修正となった。主因は世界経済の成長見通しが弱まっているためだ。

インフレ見通しも引き下げ
 ユーロ圏の成長見通しへのリスクは、以前として下ぶれ方向だ。特に、世界経済の動向に不確実性が増していることや、地政学的リスクにかかわるものが大きい。
 ユーロ圏の2月のインフレ率は、速報値でマイナス0.2%と、前月の0.3%を下回った。すべての項目が低下した。現在のエネルギー先物価格を根拠にすれば、インフレ率は今後数カ月マイナス圏にとどまった後、今年中に上昇に向かうことが予想される。
 その後は、金融政策や景気回復に支えられ、インフレ率は回復の足を速めるだろう。理事会は価格決定の過程や、賃金の動向を注視していく。特に現在の低インフレが賃金と価格決定に波及する、2次的影響を避けるよう注意を払う。
 こうした見通しも、スタッフ経済予測に反映している。それによると、ユーロ圏のインフレ率予想は16年が0.1%、17年が1.3%、18年が1.6%だ。原油安が主因で、12月から下方修正された。

融資の勢い、回復続く
 通貨供給量の分析に入る。ユーロ圏M3(現金要求払い預金、2年未満の定期預金など)伸び率は堅調で、1月は5.0%と、12月の4.7%から伸びた。M3構成要素のうちもっとも流動性が高い要素であるM1(現金・要求払い預金)の伸び率が1月は10.5%、12月は10.8%と、M3の伸びに特に貢献している。
 融資の勢いも、2014年はじめから緩やかに回復を続けている。企業向け融資の伸び率は1月に0.6%となり、12月の0.1%から加速した。
 景気循環や信用リスク、金融・非金融の両部門で続くバランスシート調整が、企業への融資に影響する状況は続いている。
 1月の家計向け融資の伸び率は1.4%と安定的だった。全般的に、14年6月以降に実施してきた金融政策は、企業と家計の資金繰り条件と、ユーロ圏内の資金の流れを明確に改善させた。
 総括すると、経済情勢と通貨供給量を分析した結果、遅れなくインフレ率を2%弱の水準に戻すため、一段の金融刺激策を実行する必要性が確認された。

金融以外の政策も貢献を
 金融政策は、中期的な物価安定の維持に集中している。そして、緩和的なスタンスは経済活動を下支えている。しかし、金融政策の恩恵を完全に受けるためには、金融以外の政策も重要な貢献を行う必要がある。
 現在の構造的な失業率の高さや低い潜在成長率を考慮すれば、現在の景気循環的な回復は、実効性のある構造改革の下支えを受ける必要がある。特に、インフラの適切な整備を含めた生産性向上と事業環境改善に向けた取り組みは、投資と雇用を増やすための生命線だ。
 構造改革を迅速かつ効果的に、金融緩和策の下で実施すれば、持続的な成長が促されるだけでなく、ユーロ圏が世界的なショックに耐える力を強めさせるだろう。
 欧州連合(EU)欧州委員会が示唆している通り、国ごとに提言された構造改革の15年の実施状況は芳しくない。過半数のユーロ圏加盟国で、改革の努力を強める必要がある。
 財政政策により景気回復を助けつつ、EUの財政に関する規定は順守する必要がある。EU安定・成長協定を完全かつ持続的に実施することは、財政の信頼性のカギとなる。同時に、すべての国は成長に親和性のある財政政策を取るよう努力すべきだ。

 

昨日のECB定例理事会声明要旨
・量的緩和、資産購入規模を月600億ユーロから800億ユーロに増額し、2017年3月末まで継続(従来通り)、必要に応じて延長も。
・資産購入を円滑に進めるため、購入対象債券の発行者を拡大し、国際機関や開発銀行など適格機関の発行する債券の購入比率上限を33%から50%に緩和する。
・ユーロ圏の非金融機関が発行する投資適格級のユーロ建て債券を、購入対象資産に新たに追加。
・6月から新たな条件付き長期資金供給オペ(TLTRO2)を開始。満期4年で、中銀預入金利を最低金利に。
・政策金利、現行水準かさらに低い水準が長期間続くと予想。
・原油相場の影響で、今後数カ月は極度の低インフレやマイナス物価が避けがたい。
・今後の景気回復、穏やかなペースで続く。
・原油安、家計の可処分所得の増加を通じ、内需を支援。
・ユーロ圏の景気回復、新興国経済の鈍化や金融市場の混乱、複数セクターのバランスシート調整の必要性などが引き続き重しに。
・ユーロ圏のインフレ率、今後数カ月はマイナス圏が続くが、16年後半には上向くと予想。
インフレ見通しの下方修正、最近の原油安が要因。

 

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