ドラギECB総裁声明(2015年1月23日)

2015年1月23日

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が昨日1月22日の定例理事会後に発表した声明です。
(時事通信より転載)

 

議決権行使の持ち回りが開始
 新年をお祝いする。この機会に、ユーロ圏19番目の国としてリトアニアを歓迎したい。リトアニア中央銀行のバシリアウスカス総裁は、1月1日付でECB理事となった。リトアニアがユーロを導入したことで、理事会での議決権行使が持ち回りとなる制度が自動的に開始した。持ち回り制度の詳細は、ECBのウェブサイトで確認できる。それでは、今回の理事会での決定結果を報告する。

3月から国債など月600億ユーロ購入
 定例の経済・金融情勢の分析に基づき、物価見通しと、これまで実施してきた金融政策について、徹底的な精査を行った。結果として、以下のような決定を下した。
 第一に、これまで資産担保証券(ABS)とカバードボンドを対象としていた資産購入策の拡大を決定した。新たな資産購入策の下で、民間・公的両部門の債券を合わせて月600億ユーロ購入する。購入は2016年9月末まで継続する方針。どのような場合でも、ユーロ圏の物価上昇率が2%弱という政策目標に沿って持続的に持ち直していくまで続ける。
 ユーロシステム(ECBとユーロ圏19カ国の中銀)は15年3月から、ユーロ圏諸国の政府や公的機関が発行した投資適格級の債券を、流通市場で購入する。これらの国債や公的機関債の購入額は、ユーロ圏諸国のECBへの出資比率に基づいて決定される。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)による財政再建の対象となっている国には、追加の条件が適用される。
 第二に、今後実施する6回の条件付き長期資金供給策(TLTRO)について、適用する金利を変更する。すでに実施した2回のオペでは、主要政策金利に0.10%を上乗せした金利を適用していたが、今後のオペでは主要政策金利と同水準の金利を用いる。
 第三に、フォワードガイダンス(政策指針)に沿う形で、主要政策金利の据え置きを決めた。

損失の共同負担は全体の2割
 ECB理事会が、新たな資産購入策の設計を担う。ECBが購入を調整することで、ユーロシステムの金融政策の単一性を確保する。
 ユーロシステムは、財源の活用は分散した形で行う。(各国単独でない)欧州レベルの公的機関が発行した債券に関しては、ユーロ圏各国が個別に購入する一方、損失はユーロ圏全体で共同して負担する。こうした債券は、全体の規模の12%にあたる。各国中銀が購入したその他の債券からの損失については、共同負担はしない。また、ECB自体の購入額は全体の8%となる。このため、損失をユーロ圏で共有する部分は、全体の20%ということになる。

原油価格急落でインフレ率低下
 今回の資産購入策は、2つの好ましくない動向に対抗するために決定した。第一は、物価動向が予想を下回る傾向が続いていることだ。ここ数カ月の原油価格急落がインフレ率低下の主因だが、これが賃金などに波及する可能性は高まっており、中期的な物価動向に影響する恐れがある。
 こうした見通しは、市場の分析により算出したインフレ見通しが一段と低下していること、足元のインフレ率に関するほとんどの指標が、歴史的低水準かその付近にあるということに裏付けられている。
 同時に、ユーロ圏の景気停滞の度合いは大きく、資金供給量の伸びも依然として弱い。また、14年の6~9月に決定した金融緩和策は金融市場の価格形成を改善させたが、これは量的な結果は伴わなかった。結果として、金融政策の広がりは、低インフレ長期化のリスク増大に対処するには不十分だった。したがって、ECBの政策金利が下限に達した現状では、一段のバランスシート拡大は物価安定という目標達成のために正当化される措置だ。

緩和スタンス、さらに強化
 今回決定した措置は今後、中期的なインフレ見通しを強く下支えよう。バランスシートの大幅な拡大により、金融緩和スタンスはさらに強化される。特に、企業や家計の資金繰りは改善が続くだろう。また、主要政策金利に関するフォワードガイダンスを強めるほか、主要先進諸国間での大幅な金融政策の乖離を、一段と広げることにもつながる。これらの要素は総合して需要の拡大や設備稼働率の上昇、融資の伸び、さらにはインフレ率の2%弱への復帰を助けるだろう。

景気回復ペースは今後も緩やか
 詳細を説明する。経済情勢の分析から始めたい。ユーロ圏の実質GDP(域内総生産)は14年7~9月に前期比0.2%増加した。最新の各指標によると、年末年始も緩やかな成長が続いたとみられる。原油安が、景気回復に向けた下地の強化につながっている。域内需要は引き続き、ECBの金融政策や資金繰りの改善、財政再建と構造改革の進展によって下支えを受ける見通しだ。その上、域外からの需要も世界経済の回復に恩恵を受けるだろう。
 ただ、ユーロ圏での高失業率や低水準の設備稼働率、公的・民間両部門でのバランスシート調整は引き続き、景気回復を阻害する要因となる。
 ユーロ圏の景気見通しへのリスクは依然として下振れ方向にある。ただし今回の金融政策の決定と、過去数週間の原油安により、リスクは減じられたはずだ。

インフレ率、数カ月は低水準かマイナス圏
 ユーロ圏の消費者物価指数上昇率(インフレ率)は14年12月にマイナス0.2%となった。11月は0.3%だった。インフレ率低下はエネルギーや食品の値下がりが主因だ。現在の情報と、原油先物価格に基づけば、今後数カ月はインフレ率はかなりの低水準か、マイナス圏にとどまることが予想される。
 原油価格が急落している中、今後数カ月は大幅な価格調整がないという仮定に基づけば、低インフレ環境は短期的には不可避だ。ECBの金融政策の後押しを受けた需要の回復や、原油価格がしばらくした後に上昇するという予想を考慮に入れると、インフレ率は15~16年の間に段階的にと上昇していくだろう。
 ECB理事会は引き続き、中期的な物価動向に関するリスクを注視する。この点に関連し、特に地政学的な動向や為替相場、エネルギー価格、金融政策の伝達について注意を傾けていく。

企業向け融資、緩やかな改善続く
 通貨供給量の分析に入る。最近の統計では、ユーロ圏M3(現金要求払い預金、2年未満の定期預金など)伸び率が上昇していることが示唆されている。ただ、水準自体はまだ低い。
 14年11月のM3伸び率は前年同月比3.1%で、10月の2.5%から上昇した。4月は0.8%だった。M3の伸びは引き続き、もっとも流動性が高い構成要素であるM1(現金・要求払い預金)の上昇がけん引している。11月のM1の伸び率は6.9%だった。
 11月の企業向け融資の伸び率はマイナス1.3%で、10月のマイナス1.6%からは上昇した。マイナス3.2%を記録した2月からは、緩やかな改善が続いている。
 ここ数カ月を平均すると、償還額の新規融資額に対する超過分は、1年前の歴史的高水準から比べると縮小してきている。11月には、融資額が償還額をわずかに上回った。
 10~12月には、融資基準が緩和されたことが判明している。資金需要の改善で、融資基準にかんする各国間の格差は縮小している。銀行は、こうした傾向は15年早期も続くことを予想している。
 これらの改善にもかかわらず、企業への融資はまだ低調で、景気循環や信用リスク、資金供給サイドの要素、金融・非金融の両部門で続くバランスシート調整の影響を受ける状態が続いている。
 14年11月の家計向け融資の伸び率は0.7%で、10月の0.6%から上昇した。各種の金融政策により、信用の供給は一段と改善しよう。
 総括すると、経済情勢と通貨供給量双方の分析を照合した結果、一段の金融緩和策の必要性が確認された。ECBのすべての金融政策は、ユーロ圏の景気回復と、インフレ率を2%弱にまで上昇させる助けとなろう。

金融以外の政策も貢献を
 金融政策は、中期的な物価安定の維持に集中している。そして、緩和的なスタンスは経済活動を下支えている。しかし、投資を刺激して雇用を増やし、生産性を向上させるには、金融以外の政策が重要な貢献を行う必要がある。
 特に一部の国は、製品・労働両市場での改革や、企業の事業環境の改善を加速させる必要がある。構造改革を迅速かつ効果的に、信頼性のある形で実行することが、決定的に重要だ。なぜなら、こうした取り組みは将来のユーロ圏の持続的な成長を後押しするだけでなく、所得の増加への期待を醸成し、企業の投資を促し、景気回復を前に進ませることにつながるからだ。
 信頼の礎となっている欧州連合(EU)条約が定める財政規律を順守しつつ、財政政策で景気回復を助けるべきだ。すべての国が、より成長に親和性のある財政政策を行うため、実行可能なことは行うべきだ。

 

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